般若(はんにゃ)

般若 はんにゃ 小面とは対照的な造詣ですが,知名度の点では数多い能面のなかでも双璧といえるかと思います。

いにしえの能面師「般若坊」が作る鬼の面の評判が高く,次第にその作品を般若と呼ぶようになったと言う説が一般的ですが,能の中で恨み執心している怨霊が改心したり悟ったりするので,仏教の智慧である般若と呼ぶようになったという説もあるようです。

嫉妬や怨念が高じて二本の角を生やした鬼女を表現した,なんとも恐ろしげな表情ですが,額の眉墨と乱れ毛をそえた僅かな毛描きに女性らしさを残します。

白般若,赤般若,黒般若があり,白は上品で控えめに表現され葵上など高貴な女の嫉妬を表し,赤は中品で道成寺,黒は下品で完全な鬼に近い安達原。

「真理を認識し悟りを開くはたらき 最高の智慧」という意味を持つ梵語のPannaに語源をもつ「般若」という名が,嫉妬に我を忘れ人ならぬものとなった女を表現する面に付けられているのも皮肉ですが,逆に智を捨て去ることが出来ぬばかりに気持ちを律することのできない己が姿を恥じて苦しみもがく女の悲しみを際立たせているようにも思えてきます。

生成、に対して本成。また,真蛇を本成として中成とも言います。

使用われる演目は
「葵上」「道成寺」「黒塚」